因果推論手法としての MMM について

マーケティング ミックス モデリング(MMM)を因果推論手法として利用する際は、後述する一般化を検討しましょう。

  • MMM は、広告予算のレベルと配分が KPI に与える影響を推定する因果推論ツールです。このタイプの分析に適したモデリング手法である MMM から得られる分析情報(費用対効果や応答曲線など)には明確な因果関係の解釈が含まれています。

  • 有効で解釈可能な MMM 分析の重要コンポーネントでもある因果推論フレームワークには重要な利点があります。

    • 費用対効果などの因果エスティマンドは、潜在的な結果を直感的かつ数学的に厳密な方法で表記して明確に定義されます。

    • 必要な仮説を特定して明確化できます。どのようなモデルでも、因果エスティマンドの有効な推定値を提供するための仮説が必要です。

  • ランダム化テストは、因果効果を推定する際に最適な方法であると広く認識されています。ただし、MMM は観測可能なデータに基づく因果推論の一種です。

  • MMM には、テストにはない重要なメリットがあります。

    • 広告掲載では多くの場合、テストを設計する際に、現代のプライバシー基準を満たしていない個々のユーザーレベルのデータが必要になります。MMM は、プライバシーに配慮した集計レベルの観測可能なデータを使用します。

    • 多くの場合、費用と実用性の問題から、テストを実施することは困難です。一方、観測可能なデータは簡単に入手できます。

    • 通常、テストは 1 つの特定の量を推定するように設計されています。たとえば、広告掲載では、地域テストを設計して、テレビなどの特定のチャネルの広告費用対効果を推定できます。MMM などの因果推論モデルを使用すると、実用性が低い複雑で厳密なテスト設計を行わなくても、各メディア チャネルの費用対効果や詳細な応答曲線、予算配分などのさまざまな分析情報を得ることができます。

検証可能な仮説と検証不可の仮説

MMM は観測可能なデータに基づいているため、ほとんどのテストでは不要な統計的な仮説が必要になります。そうした仮説は、検証不可検証可能に分類されます。

実用的な観点から、そうした仮説がなぜ重要なのでしょうか。適合性と予測能力に優れているモデルが複数あっても、費用対効果や最適化結果はそれぞれに異なるため、最適なモデルを選択するのは困難です。

検証不可の仮説

  • 条件付き交換可能性と呼ばれる条件は、MMM 回帰モデルが正確な因果推論結果を提供するために必要となる、主な検証不可の仮説です。この条件は、観測可能なデータのみからその妥当性を統計的に判断する方法がないため、検証できません。

  • 一般的に、条件付き交換可能性とは、コントロール変数が次のように設定されることを意味します。

    • メディア マーケティングと KPI の両方に因果効果があるすべての交絡変数を含める。かつ

    • メディアと KPI 間の因果経路上の変数であるメディエーター変数は除外する。

  • 因果グラフを使用すると、条件付き交換可能性の仮定の正当性を明示できます。因果グラフはこの分野の専門家の知識に基づいて構築する必要があります。観測可能なデータのみから正しいグラフ構造を特定できる統計テストがないためです。

  • 実際には、交換可能性の仮説が完全に満たされることはありません。「すべてのモデルは間違っているが、中には役に立つものもある」という定説が当てはまります。

検証可能な仮説

  • 検証可能な仮説には、モデルの数学的構造に関連する要素がすべて含まれます。重要ポイントは次のとおりです。

    • 効果の遅延やリターンの減少を含めたメディア効果が、モデルでどのように表されているか

    • コントロール変数がどのようにモデル化されているか非線形の変換は必要か

    • トレンドや季節性はどのようにモデル化されているか

  • 検証可能な仮説は、予測指標(例: サンプル外決定係数)などの適合度指標によって、ある程度評価できます。ただし、次の点に注意してください。

    • 適合度指標から、モデルが因果推論にどの程度適しているかが完全にわかるわけではありません。また、因果推論に最適なモデルが、予測に最適なモデルとは異なる可能性もあります。

    • 比較するモデル候補が多いほど、過学習のリスクが高くなります。たとえば、最適なモデルは、サンプル外適合度が最も高いモデルではありません。

    • 決定係数などの指標に、モデルの優劣を判断できる基準はありません。サンプル外決定係数が 99% のモデルでも、因果推論には適さない場合もあります。

まとめ

MMM に絶対的に最適なソリューションはありませんが、そのことは観測可能なデータに基づく因果推論の基本原則に即しています。MMM を利用する際は、メリディアンを使用するかどうかにかかわらず、必ず因果推論のフレームワークの中で MMM について批判的思考を持つようにしましょう。メリディアンの目的は、MMM の概要や仕組み、結果の見方をできる限り明確にすることです。